東京大学情報基盤センター

スーパーコンピューティング研究部門

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概要

次世代のスーパーコンピュータシステム、科学技術計算手法を研究し、日本における中心的なスパコンセンターとして、計算機資源および関連サービスを提供しています。

「計算・データ・学習」の融合による
革新的スーパーコンピューティング

Society 5.0とは、デジタル技術によってサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と社会的課題解決を実現する、安全・安心な人間中心の社会です*1。スーパーコンピュータは、主として計算科学・工学シミュレーションに使用されてきましたが、データ科学、機械学習との融合により、Society 5.0の実現に貢献することができます。

我々は、「計算・データ・学習(S+D+L)」融合を実現するスーパーコンピュータシステム(Big Data & Extreme Computing: BDEC)の構築を目指して、2015年頃からさまざまな研究開発を進めてきました。2021年5月に運用を開始した国内最大の規模のスーパーコンピュータ「Wisteria/BDEC-01」は、BDEC構想に基づく最初のシステムです。「富岳」と同じ汎用CPU(A64FX)を搭載したシミュレーションノード群(Odyssey)と、NVIDIA A100 Tensor Core GPUを搭載したGPUクラスタによるデータ・学習ノード群(Aquarius)で構成され、総ピーク性能は33.1ペタフロップスです。シミュレーション向け、データ解析・機械学習向けの、異なるアーキテクチャを組み合わせたスーパーコンピュータシステムは、世界でも初めてです。またAquariusは、大容量通信回線で外部ネットワークに直接接続され、SINETなどを介してリアルタイムに観測データなどを取得できます。Wisteria/BDEC-01は、膨大な量のシミュレーション結果や観察データを格納できる、大容量の共有ファイルシステムとSSD搭載高速ファイルシステムを備えています。

Wisteria/BDEC-01のような異なるアーキテクチャを組み合わせたシステムから最大限の能力を引き出しつつ、計算量・消費エネルギーを最小限に抑え、「計算・データ・学習」融合を実現するのが、先駆的なソフトウェア基盤「h3-Open-BDEC」です。センター内外の計算科学、計算機科学、数値アルゴリズム、データ科学、機械学習の専門家が協力して開発しています。Wisteria/BDEC-01とh3-Open-BDECによって、観測データとシミュレーションを組み合わせたデータ同化、機械学習などによるシミュレーションモデルやパラメータの最適化などが、容易になります。実現象の解明に使用される非線形シミュレーションでは、パラメータを変えて何度も実行する必要がありますが、機械学習によるモデルとパラメータの最適化によって、実行回数を大幅に削減できます。さらに、変動精度演算、精度保証を使用した高効率、高精度、高信頼な計算手法を組み合わせることによって、大幅な消費エネルギー削減が可能です。「計算・データ・学習」融合は、地震学、大気科学、材料科学、医療などの広い分野のアプリケーションに適用され、さまざまな新しい科学的発見を実現しています。

2025年1月には、筑波大学と共同で運営する最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)で、Miyabi(OFP-II)システムの運用が始まります。脱炭素化へ向けた世界的な潮流とエネルギー価格の高騰を見据え、本センターとしては初めて、エネルギー効率の高いGPUを中心としたシステムを導入します。最新のNVIDIA Grace-Hopper Superchipを1,120台搭載し、総ピーク性能は80.1ペタフロップスです。Wisteria/BDEC-01で培った、h3-Open-BDECによる「計算・データ・学習」融合に関する知見をMiyabiの運用にも活用し、Society 5.0の実現を目指します。

*1 Society 5.0: https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/